節税の不思議

節税の代償

「会社の利益が減れば税金も減る。1000万円の車を購入した場合、税率30%ならば300万円の節税となり、実質30%引きの700万円で車が買えたことになる。」
こうした話がよく聞かれます。理屈は間違ってはいません。

しかしながら、1000万円の高級車が250万円の大衆車の4倍、経営に貢献するとはとても考えられません。

色々な節税手段

では借入金、生命保険、減価償却による節税はどうでしょう。
結論、これらはどれも一時的に税金の支払いを減らす効果がありますが、長い目で見たときプラスマイナスゼロの収支になります。

要するに税金の支払いタイミングを将来に先送りにしているのです。

借入で節税?

借りた金額に応じて利息の支払いが必要になります。
借入金そのものは経費にはなりません。
借入れたお金を全て返し終わるまでに支払った利息を含めたトータルの収支はマイナスです。

そのことを知ってか知らずか「借入金のメリットは利息の支払いによる節税効果」
と語る専門家がいます。
節税効果があるのは借入金だけではありません。前述のように高額の車を買っても節税効果はあります。負債という経営上のリスクを度外視していることに疑問を感じます。

説明を真に受けるのであれば、大量に借り入れをして、かつ利率が高いほど利息の支払いが増加するため、節税効果が発揮されます。
そして、利息の支払いに現金を要し、資金繰りは悪化します。借入金の返済開始後の資金繰りは一層厳しくなるでしょう。

生命保険による節税

保険に加入して支払う保険料は経費になります。
経費になったぶんの利益の減少に応じて税金の支払い額も減りますが、最後の保険料の受け取りの際に帳尻が合います。

それでは「生命保険に加入すれば節税できる」と一般的にいわれているのは何故でしょうか。
それはメリットだけを説明をしているからです。

例えば、保険金と退職金を相殺すれば税金はかからないといわれています。退職金支払いによって減ったぶんが保険金を得たことで帳消しになるという考えです。

冷静に考えてみると生命保険に加入しなかった場合にも退職金は存在しているはずです。
保険金を得ていなければ、退職金支払いによって税金は減るのです。つまり、退職金の節税効果は保険とは本来、無関係です。

生命保険加入の運用シミュレーションは生命保険に加入しなかった場合と比較をすべきでしょう。
特に、保険を早期解約した場合には100%全額は返ってきません。

補足:
毎年の保険料を100万円、税率30%とすると年間の節税効果は30万円です。
仮に5年後に解約して100%受け取れたとしても、解約時に500万円の収益が発生して150万円の税金を支払うことになります。
年間30万円×5=150万円との差額は0円、プラスマイナスゼロになります。

5年後に解約して8割(400万円)が返ってくる場合の税金は120万円です。100%受け取れた場合との差額は30万円となりますがもちろん得したわけではありません。
30万円は返ってこなかった残りの2割の30%、つまり費用となった100万円の税額相当ぶんです。
5年間でトータル100万円-30万円=70万円のお金が減りました。

減価償却による節税

減価償却とは事業に使用する建物・設備・車などの資産を時間の経過にともなって価値が失われていくものとして、複数年に渡ってわけて費用にする会計のルールです。代金の支払いとはまったく別の概念です。
自分の会社だけは常に資産を一括で費用化するといった独自運用はできません。

当該年度において利益が出ると見込まれる場合には、ルールの範囲内で減価償却の費用を増やしたほうが資金繰りが改善されます。
逆に利益が出ないのであれば、法人の場合には減価償却をしなくても構いません。

まとめ

何れにせよ税額控除を除いて、税金の支払いが免除されるような裏技はありません。

利息や保険料を支払ったぶん、会社が使えるお金は確実に減っています。
節税と引き換えにお金が減ってしまうのは本末転倒ではないでしょうか。

減価償却は利息や保険料の支払いとは根本的に異なります。
減価償却はそもそも現金の出入りを伴いません。