誰にも聞けない会計①〜仕訳

仕訳とは?

簿記は会社の営業実績や経営状況を把握するための記録技術です。
我々の日常生活ではお金の出入りを中心にして家計を管理しています。これが単式の簿記です。

一方、会社では複式の簿記で経営を管理しています。具体的には生じた取引の内容を左右にわけて帳簿に記入します。なぜそのような書き方をする必要があるのでしょうか?
本記事では仕訳の構造を一から説明します。

家計簿と何が違う?

自宅の一角で現金だけで商売しているのであれば単式の簿記(つまり家計簿のような記録のしかた)でも問題はないかもしれません。取引回数が増えるに従って、資産の管理や借金やツケの把握ができなくなってしまいます。最近よくみるサブスクリプション契約(期間を決めた定額支払いの料金形態)や保守契約のような取引の扱いも単式の簿記では記録が困難です。
そこで用いられるのが複式簿記です。複式簿記なる考え方によって、はじめて資金繰りや土地や建物といった資産を明確にすることができます。

物々交換の仕訳

初めに物々交換を仕訳っぽく考えてみます。
あなたが米農家だとして、自分が作ったお米と野菜農家の野菜を交換した場合、以下のように仕訳できます。

野菜 10kg /  お米 20kg

上記のように記録することでお米を渡してかわりに野菜をもらったという意味になります。
左右を反対に書くと逆の意味になります。野菜農家側の目線では野菜を渡してお米を得ているので左右が反対になります。

次に得た野菜の半分を果樹園で果物4kgに変えてもらう場合の仕訳は以下の通りです。

果物 4kg /  野菜 5kg

これらの2つの取引をまとめると以下になります。

果物 4kg  / ———

野菜 10kg /   5kg

お米 ——— /   20kg

仕訳の左は資産の増加、右は資産の減少を意味します。
結果は以下の通りです。

1.果物を4kg保有

2.野菜を5kg保有
 計算式:10-5=5

3.お米を-20kg

お米は右に20kgと書かれています。これは資産のマイナスを意味します。物理的に存在しない架空のもので物々交換をすることは不可能です。実務上、在庫がマイナスになることはありえません。
説明の都合で省略しましたがお米の在庫があるという前提の話です。仮に300kgのお米を保有していた場合、在庫の残量は300-20=280kgです。

貨幣での取引へ

物々交換の場合は商品の種類によって同じ分量の価値が異なります。つまり仕訳の左右の数字が一致しません。貨幣単位(日本円)での取引を考えます。

実際の簿記では個数や本数ではなく円(¥)を利用します。例えば、お米を5,000円ぶん売って5,000円を受けとった場合の仕訳は以下の通りです。

お金 5,000円 /  お米 5,000円

お金が増えた場合は常に左側に書くのが基本ルールです。この左右は決まりごとです。次に、お米を売って得たお金の一部2,000円で野菜と果物を買った仕訳は以下の通りです。

野菜  600円 /  お金 2,000円
果物 1,400円

お金が減った場合には「お金」を右側に書きます。資産が2,000円減ったという意味になります。
(その対価として野菜と果物を得ました。)
更に残っているお金で木炭を買った仕訳は以下の通りです。

木炭 1,500円 /  お金 1,500円

以上3回の取引をまとめると以下の通りです。

お米 ——— / 5,000円
野菜 600円  / ———
果物 1,400円 / ———
木炭 1,500円 / ———

お金 5,000円 / 2,000円
       1,500円

————————————
     残高 1,500円

仕入れと売価

以下の一連の取引では800円で仕入れた鉛筆セットを売って200円の儲け(お金+200円)を見込んでいます。

[仕入れ時]
 鉛筆セット 800円 /  お金 800円
[販売時]
  お金 1,000円 /  鉛筆セット 1,000円

この書き方では鉛筆セットが仕入れ時と販売時で勝手に価格が変わっています。そこで販売時の鉛筆セットの売価1,000円は原価(仕入れ値)800円と上乗せした儲け200円の合計であることがわかるように書くと以下のようになります。

お金1,000円 /  鉛筆セットの原価800円
              儲け200円

会計用語で単語を書き換えると以下のようになります。

現金 1,000 /    商品800
       商品販売益200

売上と売掛金

更に、右側の「商品+商品販売益」の部分を「売上」で纏めると以下の仕訳になります。

現金 1,000 / 売上1,000

会社の実務においてはその場での現金払いではなく、ツケ払いが日常的に行われています。ツケ払いを売掛金と呼びます。売掛金は物々交換にはなかった取引形態です。
300円を現金でもらい、残り700円をツケにした場合の仕訳は以下の通りです。

現金  300 / 売上 1,000
売掛金 700

会計処理の違い

初心者にとって構造がわかりすい仕訳は「売上」ではなく、利益と商品の原価とでわける仕訳方法でしょう。

現金 67千円 / ミシン51千円(原価)
         利益16千円(儲け)

ただ、この仕訳方法には業務上、問題があります。外から買ってきたミシンの価格はすぐにわかっても、ものづくり業(ミシンメーカー)の場合、販売時に製造したミシンの製造にかかった金額(原価)が算出できていないことがあるのです。そこで「売上」という項目を用いて、原価は別に計算するのです。

まとめ

ここまで極力専用語を用いずに解説してみました。簿記は用いる言葉が聞き慣れず難解ですが構造自体は単純です。

「のれん」「減価償却費」のような聞きなれない項目が出てくる実際の決算資料を読解するためには、簿記の理解が必要になります。